音楽仲間から勧められた、羽田穴子の名店淀。息子たちと訪れた。
とても昭和的、吉田類的な空間。現に吉田さんと倉本康子さんのサインも発見。イヤが上にも期待が高まるというものだ。
期待に違わぬトップバッター、穴子の煮凝り。売り切れ必至な「要予約」メニュー。もうこれだけで、穴守稲荷に足を延ばす価値あり。
穴子の肝煮。1匹から1つしか採れない肝が、こんなに沢山。ビールを一時停止して、冷酒でその苦みを堪能する。ああ幸せ。
穴子、メゴチ、鱚の江戸前天三種盛。フワフワで甘みのある白身は、天ぷらにサイコーなのである。何しろ素材がいいので、衣の仕事はご愛嬌。「この店で穴子以外を喰うのか?」と原理主義的発言を繰り返した息子たちを見事に黙らせた一品。ビール再開。
鉄板の白焼。穴子の滋味がストレートに味わえる。日本酒再開。酒飲みでよかった。
看板メニュー「羽田鍋」。もちろん要予約。火入れ前からの3変化。
醤油ベースのしっかりした味付けを、おろしポン酢でいただく。鍋にして味わう穴子は初めてだが、身は固くなく、穴子の甘さが野菜と絡まり、本当に旨い。
鍋を平らげた後は、〆の雑炊。穴子の出汁と一体となった飯は最強である。しかしこの脂によって濃厚な出汁は、少しもクドくない。いい素材を、丁寧に仕込んでいるからだろう。雑炊をすすり終わると穴子の滋味が全身に満ちてくる、寧ろそういう優しい味である。穴子が滋養強壮に効くことを、舌だけでなく胃袋でも理解した俺たちは、最高にいい気分で帰宅の途に就いたのだ。
初夏が旬の穴子は、しかし大将に訊くと、一年中旨く食べられるように捌いているという。また寒い時期にも来よう。その価値は十分にある。
穴守稲荷に店を構えて45年。70歳過ぎの大将に一日でも長く続けて欲しい、と思った。江戸前の穴子を喰うには、ここに限る。