souxouquit’s blog

オヤジロッカー souxouquit の蹴音映書網業泉食考♪

ファンタジーもしくはホラー

むかしむかし、ある街の街外れ、険しい山の麓に、とてもこころの貧しいお婆さんが住んでいました。
毎日毎日、街の若い者をつかまえては、以前は自分がどれぼど美しく街中の男たちに求愛されたか、言ってきかせていました。
あんまり毎日毎日同じような自慢話を聞かされるので、そのうち、街の若い者は、誰一人そのお婆さんとハナシをしなくなりました。


一方、こころの貧しいお婆さんの隣に、もう一人別のお婆さんが住んでいました。


このお婆さんは、こころの貧しいお婆さんと反対に、もの静かで、いつも寂しそうにしているので、街の若い者は、このもの静かなお婆さんの元に集うようになりました。


ある日、もの静かなお婆さんの家に頻繁に出入りしている若い青年の一人が言いました。
「お婆さん、一人じゃ寂しいでしょう。僕が一緒に居てあげます。」
それを聞いたお婆さんは、たいそう喜びました。そしてその二人の奇妙な共同生活が始まりました。


二人は、初め、何事もなく平和に暮らしていました。
ところが、次第に、もの静かなお婆さんは、何かにつけこの青年にモノを言いつけ、便利に使い、挙句の果てには、唯一の楽しみであった裁縫教室まで任せるようになってしまったのです。


その様子をじっと隣で見ていたこころの貧しいお婆さんは、ある日、もの静かなお婆さんが珍しく山へ出かけたのを千載一遇のチャンスとばかり、人気のないところに分け入った時に、ひと思いに、殺してしまいました。
そして何食わぬ顔をして、もの静かなお婆さんの家に戻り、青年と暮らし始めました。何故そんなことが可能だったかと言うと、お婆さんはお互いに、何から何までそっくりの双子だったからでした。


それからの二人の生活は、まるで時計の針を逆に回したかの如く、昔に戻っていきました。青年は次第にお婆さんから強要されることが少なくなり、お婆さんは、こころが豊かだったかつての幸せを思い出すようになり、常に微笑むようになり、口数も減ってきました。また、苦手だった裁縫もすっかり上手になり、青年に任せていた教室でも、自分から教えるまでになりました。
2人は、それぞれが幸せでした。


やがて青年は言いました。
「お婆さん、あなたはかつてのように一人じゃありません。裁縫教室は繁盛しているし、いつもこの家は賑やかで、すごく楽しそうです。もう僕は一緒に居なくてもいい感じがします。それに僕も、何年か振りに、街へ出てみたいのです。」
お婆さんは言いました。
「いつかそう言われると思っていました。あなたのような若者が、このような年寄りに縛られるのはよくありません。好きにおし。」
こうして二人は別れました。


その後の二人については、よく判りません。


お婆さんは、自らの手にかけてしまった双子の姉の供養のため、山に篭もり、自足自給の生活をしていると、風の便りに聞きました。
また、青年は、街でしばらく生活した後、街を出て行きました。街を出て行ったあとは全く消息が不明のようです。


ただ、かつて二人が暮らした家のポストには、一年に一度、見知らぬ異国の消印の絵葉書が今だに届くと聞きます。
それが彼からのものなのかどうか、誰も知りません。